<




月刊『教員養成セミナー』(時事書房発行」9月号/書評/『百万回生きたねこ』 佐野洋子著 講談社・『くれよんのくろくん』 なかやみわ著 童心社 


学校にいる頃、私はいつも居心地の悪い思いばかりをしていた。取り立てて目立つ生徒だったわけではない。いじめっ子でもないし、いじめられっ子でもなかった。つまり、学校の中では毒にも薬にもならないありふれた生徒のひとりだった。
こんな過去を私は苦い思いとともに思い出す。私は、いじめられないため、集団から浮き上がらないため、細心の注意を払って自分を抑制して"普通"を装っていたからだ。
昔、私が必死で演じていた"普通"とは一体なんだったのだろう?

『100万回生きた猫』に登場する「ねこ」は、999999万回分の人生を"誰か"の飼い猫として生きた。飼い主は、王様だったり泥棒だったり老婆だったりするが、「ねこ」はいつだってその"飼い主"が嫌いだ。飼い主が聖人君主だろうが、人畜無害な老人だろうが、「ねこ」は自分の頚木でしかない"飼い主"を嫌う。
100万回目に、「ねこ」は初めて誰の猫でもなくなって"野良猫"になる。「ねこ」は初めて、"自分の猫"になったのだ。「ねこ」は自分自身が誰よりも大好きになる。その後、「ねこ」は美しい白猫と出会い、彼女が産んだ子供と彼女を自分自身よりも大切なのではないかと思うようになる。

以前、私は自分自身があまり好きではなかった。他人の目に映る自分ばかりを見ていたからだ。軸が他人にあるので、いつも自分が揺らいでいる。そんな揺らぐ自分がつらかった。私は自分が自分らしくいられる居場所を探していたのだ。

『くれよんのくろくん』に登場する「くろくん」は、文字通り、黒いクレヨン。ほかのクレヨンが描く絵の中に、「くろくん」の居場所はない。「ぼくはどこを描けばいいの?」という「くろくん」の問いに、ほかのクレヨンの答えは冷たい。
「きれいに描いた絵を黒くされたらたまらない」
 居場所がない「くろくん」にアドバイスをするのは、「シャープペンのお兄さん」だ。クレヨンたちが描き込みすぎてすっかり雑多になってしまった絵を、「くろくん」は「シャープペン」のアドバイス通り、真っ黒に塗りつぶして一枚の闇を作り出す。そして、「くろくん」が作ったその闇を「シャープペン」が削っていくと、夜空に美しい花火が花開くのだ。

私が、「ねこ」のように自分自身を大好きになるためには、学校を卒業した後、紆余曲折があってフリーランスのライターになるまでの長い時間が必要だった。学生時代に「シャープペン」のような先生がいてくれれば、私はもっと早く自分自身に気づけたし、もっと楽しくて充実した学生送れたのではないかと思う。「くろ」も「きいろ」も「ピンク」も、それぞれに役割がありそれぞれに居場所がある。こんな単純なことがわかるまで、結構長い時間を費やしてしまった。
ご紹介した2冊は、私の娘が大好きな絵本だ。

「わたしは"くろくん"だよ」と、なんのてらいもなくそのままの姿が受け入れられる、そんな学校生活を娘には送って欲しいと願っている。





女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理