月刊『ビジネスガイド』(日本法令」2004年4月号/『今どきの効果的な求人・採用方法』
効果的な求人・採用方法


「雇用のミスマッチング」を避け、必要な人材を雇用するために
今時の求人実態と
上手な求人方法

ライター:加藤美保
構成協力:経営コンサルタント・株式会社トライアンフ 代表取締役 樋口弘和
取材協力:株式会社リクルート/『Bing』副編集長・『リクナビネクスト』マネージャー岡崎仁美/ハローワーク千葉雇用開発部長古田俊裕.


1.今、人材市場が動き始めた


有効求人倍率が上昇、失業率は低下

最近、積極的に新しい人材を雇用する企業の動きが目立ち始めている。
厚生労働省が発表した2003年12月の有効求人倍率(求職者ひとり当たりの求人割合)は、0.78倍で、前月より0.04ポイント改善。総務省が発表した昨年10月の完全失業率は4.9%で、こちらも、前月から0.3%改善した。一方、求人広告掲載件数も、昨年の9月、10月と2ヶ月連続で30万件を突破している(表A参照)。
人材市場は今、静かに、そして確実に動き始めていると見てよいだろう。

雇用情勢を活性化させている「3つの変化」

では、なぜ今、雇用情勢に活発な動きが見られるのだろう? 
要因としてまず考えられるのは、社会情勢の変化だ。企業の収益が増加するにつれて景気が好転し、バブル以後、人件費を縮小し続けてきた企業が、新たなビジネスの展開を図るために人材を拡充し始めたことが、雇用活性化の起爆剤となっていることは確かである。
さらに、企業側の人材活用に対する意識の変化も、雇用情勢に大きな影響を与えている。一昔前であれば、企業にとって人材調達といえば新卒者採用が中心で、中途採用はあくまでも欠員を補充するために行うものでしかなかった。しかし、今、規制緩和が進む中で、ビジネスはグローバルスタンダードで展開している。このため、日本的な一括採用、年功序列型の人事システムでは、十分な効果が期待できなくなった。中途採用は、即戦力を得るための効果的な手段、さらに、外部の新たなカルチャーを導入し、組織を活性化させるための有効な方法と考える企業が増えている。
さらに、労働者自身が大きく変化したことも、雇用情勢に影響を及ぼしている。2002年、労働者の転職経験率は、首都圏でおよそ
58.9%に及ぶ(表B参照)。女性に限って見ると、10人中7人に転職経験があるという。「仕事に関わる自分の人生、すなわちキャリアを真剣に考え、行動を起こす人が増えている」(経営コンサルタント/株式会社トライアンフ 代表取締役 樋口弘和氏談)。
 現代は、労働者自身が能動的に自分のキャリアを設計し、実行していかなければならない厳しい時代と言えるのかもしれない。

2.「雇用のミスマッチング」

ところで、有効求人倍率0.78倍というのは、19993年5月以来(0.79倍)10年振りの高い数値ということになる。一方、当時の完全失業率がわすが2.5%だったことを考えると、現在の雇用情勢は、求人はあるけれどそれが雇用とは結びつかない、「雇用のミスマッチング」な状態にあると言えるだろう(表C参照)。

「雇用ミスマッチング」はなぜ起こる?
「雇用のミスマッチング」は、企業が要求する技能やキャリアなどの条件を求職者が持っていなかったり、年齢や性別などの制約により、求職者が職に就けなかったりすることによって起こる。さらに、昨今、多くの企業では、重要なポジションに配置するスタッフを少数先鋭して正規社員として雇用し、それ以外のポジションの人材については、契約社員や派遣社員など、テンポラリーな人材で補うところが多い。この状況が、さらに、「雇用のミスマッチング」に拍車をかけることになった。少ない正規職員のポジションに、大勢の求職者が群がってしまうからだ。
今、人事担当者が人材を採用する際に考えなくてはならないことは、いかにこのような「雇用のミスマッチング」な状況を回避するかということなのだ。

3.必要な人材を明確化する

ビジネスに即した人材を採用するためには、まず、現場(=事業部)が欲している人材像を正確に知ることが必要になる。
「そのためには、人事は徹底した現場主義であることも必要。たとえば、コンピューターサービスの営業マンを採用すると仮定する。彼らが現場において、お客様の満足度を上げるためにどのような仕事をしているのか、現場に同行しなければ、具体的なところは何も見えてこない。だから、人事の仕事は、いすに座っていてはできないと、私は思いますね」(樋口弘和氏談)
最近、各事業部(カンパニー)ごとに採用活動を行い、業績評価基準や給与体系を設定する企業が増えつつあるが、それにはこのような背景がある。これからの人事は、できる限り事業部サイドの情報を入手して、事業部サイドから、ビジネスを見つめ、現場に必要な人材を雇用するという動きが基本となるだろう。

求人媒体を選ぶ
次に重要なことは、必要な人材がどの媒体により多く集まっているのかをマーケティングすることだ。
 現在、求人媒体は多種多様、転職の活性化にともなって、百花繚乱の様相を見せる。主な媒体として、ITの転職情報サイト、ハローワーク、就職情報誌、新聞の求人欄、人材紹介業、ヘッドハンティング会社などが挙げられる。求職者側の各媒体利用率を見てみると、「転職情報サイトの登録」が64%で1位。次に、「ハローワークの利用」61%、「転職情報誌の購入」55%と続く(表D参照)。だからといって、転職情報サイトに求人広告を掲載すれば目的とする人材が雇用できるかといえば、答えは[NO]。具体的には、職務内容、年齢、性別、雇用形態、採用対象地域、採用費用、などの条件を勘案して、最も効率的な「採用方法・手段」を選ぶことが必要だ。

@  就職情報サイト

今、最も活用されている媒体
就職情報サイトは、各家庭にインフラが整備され始めた5年程度前から活用され始め、現在は、就職情報誌を凌駕する勢いだ。主な就職情報サイトは、『リクナビNEXT』、『en』、『毎日キャリアナビ』、『ファインド・ジョブ』、『日経Bizキャリア』などがある。

就職情報サイトの特徴は?
媒体特性として挙げられる特徴は、まず、「ユーザー側に編集権がある」という点だ。これは、ユーザー自身が必要な情報(条件)を打ち込んで、情報を絞り込むことでできるということ。つまり、自分の転職動機や、キャリア、技能を明確に把握している求職者が、この市場には集まりやすく、そういう人材を求めている企業にとって人材サーチがしやすい媒体ということになる。具体的な職種としては、技術系職業、特に、IT産業系のエンジニア職、さらに、クリエイティブ職や各種専門職などが挙げられる。
また、就職情報サイトは、即効性をメリットとする媒体でもある。それゆえに、人事労務担当者にはリアションの速さが求められる。IT時代の人事担当者は、応募ファイルが手元に届いたらその翌日には応募者に返事をするぐらいのスピード感を持つ必要がある。

効果的に活用するためのノウハウ
就職情報媒体の多くでは、さまざまな特集が特集されている。たとえば、「次世代リーダーを求める企業」とか、「広告・出版・マスコミ・ゲーム業界の仕事特集」などなどだ。そんな特集に連動させて求人広告を出すと、求職者の反応が高いと言われている。
また、就職情報サイトで求職者の検索頻度が高い検索条件に、「仕事内容」「未経験者歓迎」「年収例」が挙げられるという。逆に考えると、この検索項目にポジティブかつ明確な内容を載せれば、応募率を上げることは、可能である。
しかし、当然のことながら、応募率の上昇は「雇用のマッチング」とイコールではない。応募者の質(マッチング度数)を重視するのか、出会いの確立を高めるのか、それも人事担当者としてどのような人事戦略立てるのかという選択になるだろう。
コスト面を考えると、就職情報サイトの場合、そのスケールにもよるが、総じて就職情報誌や新聞の求人広告より低コストで広告を掲載できるというメリットもある。

A 就職情報誌

就職情報誌のメディア特性は、場所を選ばず、いつでも好きなときにバラパラと見られるという点である。このため、「なんとなく仕事探しをしている」層、それから、「普段机に座って仕事をしない」人たちの目に触れる頻度は高いということになる。具体的な職種として、営業、外食産業系、土木・建築業などが、この媒体のメインターゲットとなっている。さらに、契約社員や派遣社員などのテンポラリーな人材も、この媒体を利用する率が高い。特に、テンポラリーな人材を探している場合は、女性を読者対象とした就職情報誌を利用すると効果的だろう。当然のことながら、数多く発行されている各情報誌によって特色が異なるので、比較検討してみることも大切だ。就職情報サイトにその市場を吸収されつつある情報誌ではあるが、職種や雇用形態によっては、未だ求人メディアとしての利用価値も高い。

B 新聞

新聞の媒体としての特徴は、発行部数が膨大で、しかも毎日自宅まで確実に配達されいるという点が挙げられる。さらに、どこでも好きなときに見られる、小さくたたんで持ち運びが自由、などなどのメリットから、新聞は、今でも求人媒体として大きな影響力を持っている。
特に、大手新聞5紙への評価は高い。企業によっては、インターネットにおける求人はまだまだ安っぽいと感じるところも少なくなく、敢えて、コストをかけて新聞に求人広告を出すところも多い。
また、各新聞によって、反応の期待できる職種、業種は、以下のように特徴がある。
●朝日新聞――クリエイティブ系、専門系、事務系
●読売、毎日新聞――営業系、サービス系 
●日本経済新聞――金融系
●ジャパン・タイムズ――外資系

C ハローワーク(公共職業安定所)


ハローワークは、厚生労働省から各都道府県に委託された職業紹介と人材紹介の機関だ。最近、求職者の間で、今まで以上にハローワークの利用頻度が高まっている(表D参照)。
人気の要因について、ハローワーク千葉雇用開発部長古田俊裕.氏は、「平成15年の1月から、インターネットで全国の求人を閲覧できるサービスを始めたことが影響しているのではないか」と分析。
一般的に、ハローワークでは、地域色の強い仕事を探す人材や、サービス業や中高年などの人材とのマッチング度数が高いといわれている。ただし、地元に密着して人材紹介を行っている性格上、その特徴も各安定所でそれぞれ異なってくる。まずは最寄のハローワークで説明を受けることが必要だろう。また、ハローワークは、求職者同様、企業側も無料で利用できるというメリットもある。
なお、2004年4月19日から、ハローワークの「総合雇用情報システム」が全面更改される。求人申し込みの諸用紙も変更されるので、利用の際には注意が必要だ。

D 人材紹介業・ヘッドハンティング会社・エグゼクティブサーチ会社


人材紹介業とエグゼクティブサーチ業

 人材紹介会社とは、その会社に登録された人材を企業に紹介する人材仲介会社のこと。これに対して、求人側から必要な人材の特性を聞き出し、その技能を保持する人材をアグレッシブに引き抜くのが、エグゼクティブサーチ会社(ヘッドハンティング会社)だ。
人材紹介会社は、成功報酬制を採用しているところが多いので、他の就職情報媒体より人材をサーチする過程では費用がかからないというメリットがある。報酬価格は、一般的に採用に至った人材の年収の2〜3割となる。しかし、その一方で、「登録者」の中でしか人材をチョイスできないので、雇用のマッチング率が低いという欠点もある。
一方、雇用のマッチングという点から考えて、最もその効果を期待できるのが、エグゼクティブサーチ会社だ。一般的に、ハンティング会社はハイキャリアで専門性の高い人材をサーチするときに利用されるケースがほとんどなので、コストもそれなりにかかる。
以前、ヘッドハンティングといえば、外資系企業が利用するケースが断然高かったが、最近ではかなり状況も変わり、「利用企業の7割が国内企業」というところも増えてきた。

アウトプレースメント会
最近注目を浴びているアウトプレースメント会社(再就職支援)とは、主に大企業が会社都合で人員削減を行う場合に、その会社から依頼を受けて、人員削減の対象となった社員の転職に必要な研修を行い、人材紹介サービス行う機関である。登録されている人材の多くは、大企業出身の高キャリアな中高年ということになる。しかも、アウトプレースメント会社の場合、求職企業側に利用料金がいっさいかからない。今、最も注目したい魅力的な求人メディアと言えるだろう。


4 求職者の知りたい情報を開示する姿勢

採用を成功させるためには、就職媒体の違いに関わらず、「求職者が知りたい情報を提示する」ということが基本となる。
求職者が求めている内容は、以下4カ条。
@その会社が取り組もうとしているテーマに自分が共感できるかどうか→企業としての展望。ここで、求職者は企業の将来性を見る
Aその中で自分が貢献できるかどうか→仕事の内容をできる限り具体的に提示する
Bその企業が一緒に信頼し合いながら、働けるような職場かどうか→企業カルチャーも含め、より具体的な社内の雰囲気を知りたがる求職者が多い
C実際にどれくらいのペイがもらえるのか→収入、福利厚生など、できるだけ具体的に。さらに、年代別の年収例も提示するとよい
D募集背景(その企業が今回、中途採用に至ることになった理由)→人材に対する企業姿勢が問われている

求人は、ラブレターを書く意気込みで

求職者は、本当に真剣に自分の居場所を探している人が多い。そんな彼らを説得できるような情報の提示が重要になる。
「採用したい人材に出会ったら、応募者に心底ほれ込んで、それを文面なり口頭で伝える。その心意気がないと、なかなかお目当ての人材に振り向いてもらえません。求人広告はラブレターであるという意識を強くもって欲しいと思います(株式会社リクルート/『Bing』副編集長・『リクナビネクスト』マネージャー岡崎仁美氏談)
雇用したい人材を現場主義の立場で明確にして、求めている人材が多く集まる市場に、コストパフォーマンクを勘案しつつ、求人を出す。求人の内容は、求職者が必要としている情報と、企業情報を明確に盛り込む。単純ではあるが、これが、必要な人材を雇用するための、採用成功の極意といえるだろう。





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