『溺れ死んだ男』の最後の闘争』
1998年9月7日初版発行『なりたい!カメラマン』(大栄出版)より

写真技術は、たったひとりの科学者や技術者によって発明されたものではない。
さまざまな場所、多くのアマチュアを含めた科学者たちが、同じような時期にさまざまなバリエーションで写真技術を発明し、その中でも比較的コストがかからない技術が、淘汰の末に生き残った。そしてここにもひとり、激化していた写真技術戦争から脱落したアマチュア科学者がいる。その名は、イポリット・バヤール。写真の発明家として有名なニエプスやダゲールと同様、彼もまたフランス人だ。
フランス大蔵省の下級官僚だったバヤールは、直接陽画法(ネガ像抜きで直接ポジ像を得る技術)を考え出した。これはちょうどダゲレオタイプとガロタイプの折衷案のような技術だったという。ダゲレオタイプのような精密な画質は得られず、かといってカロタイプのように複製もできない、いわゆるバヤール法は(なんてものは史上存在しないが)かなり中途半端な技術だった。そのため、バヤールの発明した写真技術は、アカデミーから完全に黙殺されてしまった。そこでバヤールは一発奮起、なんとか自分の業績を認めさせようと、セルフポートレイトを撮影してアカデミーに送りつけるのだ。
その作品のタイトルが『溺れ死んだ男』(1840)。
写真の中でバヤールは、半裸体で椅子にもたれかかり、「溺れ死んだ男」を見事に演じ切っている。今見てもこの写真、なかなかの迫真演技振りで笑える。
バヤールは発明闘争に敗れてしまったが、世界で最初にポートレイト撮影を行った人物として、また写真による抗議をした人物として、写真史を語る上で欠かせない存在となっている。



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