ゲームクリエイター 飯野 賢治さん


明日にでも中古のパソコンを買って来て、
ゲームを一本作ってみればいい


ゲームクリエイター/飯野賢治

Profile
高校中退後ゲーム制作会社に勤務。1994年、鰍vARP設立。代表取締役として現在に至る。主な作品は、『Dの食卓』(マルチメディアグランプリ・通産大臣賞受賞)、『エネミー・ゼロ』。最新作の『リアルサウンド〜風のリグレット〜』は、なんと映像が全くないゲーム。常に斬新なゲームを発表し話題を呼んでいる。



人とは違う苦労をするから"クリエイター"なんですよ
――飯野さんは、ゲームクリエイターを目指す人達にとって教祖的な存在と言われていますよね。
飯野 
実際にはそんなことはないんじゃないの?(笑)
――
そのような若い人達に対して、どういう印象を抱かれますか?
飯野 
なんかちょっと甘いというか、最近の男の子たちは子供っぽいよね。たまに学校に講演に行ったりするけれど、今は女の子の方がずっとしっかりしている。
――いろいろ相談を受けることもあると思いますが、彼らにアドバイスを与えるとしたら?
飯野 
まず、モノを作れということですね。情熱もわかるけれど、モノを作ることもしないでゴチャゴチャいう人が多いからね。とにかく、まずは実際にゲームを一本作ってみろと言いたい。それまでは恥ずかしいから黙っていた方がいいよ(笑)。パソコンがないなら、明日にでも中古でいいからマックを一台買って来てね。高いとか言って、パソコン一台買えない人が多いからね。そういうやつは、包丁も変えなければ釣竿もギターも買えない(笑)。ゲームを本気で作りたいと考えるなら、10万円のマック一台買えなくてどうするんだよ。家財道具を売りに出してでもコンピューターを買うくらいの気構えがなければ無理ですよ、やっぱり。何をしなくても世の中の人全員にチャンスがあったら、みんなが簡単にクリエイターになれるもんね。そこから一歩飛びぬけるから特殊な職業なわけで、人とは違う苦労が必要なんじゃないかな。
――なるほど。では、ファンの方も知りたがっていると思うんですが、飯野さんが一緒に仕事をしたいと思うのは具体的にどういう人ですか?
飯野 
顔だね(笑)。もうほとんど顔ですよ。顔で、一緒にいたいなーと思う人は採用している。顔を見てイヤだなーと思う人とは、一緒に仕事なんてできないもんね。では、具体的にどういう顔がいいのかということについては、うまく説明しにくいのですが、かわいいとかカッコイイとかじゃなくて、"イイ顔"です。うちはまず、顔で一次選考があるんですよ。履歴書の顔写真が"なんかイイ顔している"と判断したら、面接をします。だって、他に見ようがないじゃんね(笑)。企画書書かせてもワケわかんないしね。
――募集をしていない時も応募があるのでしょうか。
飯野 
週に平均して3〜4人は来ますね。今は基本的に新規採用していないんですよ。でも、先日も徹夜して座り込みしている子がいたしね。その人には、「じゃあ、今度会って一度話を聞こう」ということになったんですが。
――未経験者でも採用することがあるのですか。
飯野 
その方が多いです。
――まず、見習という形から始めるのですか。
飯野 
それはもう、いきなりメンバーにしてしまいます。できる人は初めからできますからね。3、4ヶ月も経てば戦力になります。逆に、3、4ヶ月で覚えられなかったら、居辛くなって辞めてしまいますから、どちらにしても見極めは3、4ヶ月目ということですね。

ゲーム業界はわりとまっとうな業界
――なぜ、ゲームを表現の場として選んだのですか。
飯野
 ゲームが作りたかったというより、自分の表現したいことがあって、たまたまゲームという媒体を選んだということなんです。ただ、ここはわりとまっとうな業界ではあると思うんですよね。たとえば、僕が音楽をやろうと思ったとしても、なかなか日本ではチャートで1番にはなれないんじゃないかな。音楽業界では、よい音楽が一番を取れるわけではなくて、そのあたりはもう無茶苦茶でしょう。今は漫画も音楽もそういう傾向にあるよね。作品そのものより、出版社の力が問題だったりするから。でも、ゲームってそういう意味では他の業界に比べるといいものが売れるというまともな部分がまだ少し残っている。
それから、ゲーム制作は共同作業だから結構毎日が文化祭、ブラバンの全国化大会、高校野球の甲子園(笑)、つまりそういうノリなんです。その感じが面白い。そういうのが好きな人にとっては楽しいところですよ。僕自身、集団行動はあまり好きじゃないんだけれど、その僕が面白いと思うんだからね。

"出る杭"の方がカッコいい
――高校を中退して工場でアルバイトをしていた時期があったということですね。その後ゲーム業界に入られて現在は大変な成功を収められていますが、成功の秘訣はなんだと思われますか?
飯野 
成功なんてしていないと思いますよ(笑)。そんなにお金を持っていないし、家も未だに借家だしね。名前が表に出ていてわかりやすいだけであってね。ただ、僕は今までいろいろな意味で自分に対して責任をきちんと取ってきたと思うんですよね。甘えていないというか。何かの真似であったり、何かに逃げていたり、ごまかしたり、カラーが出ていなかったり、特に日本では、皆さんそういう教育を受けてきていますから。あんまり"出る杭"じゃない方がいいわけですよね。僕自身は、やっぱり"出る杭"の方がカッコよくて認められる対象という感じがする。
――自伝的著書『ゲーム』(講談社)の中でも、頻繁にカッコよさについては表現されていますよね。
飯野 
他の追随を許さないほど確立されている個性的な存在を、僕はカッコいいと呼んでいます。ごまかしのないクールな存在とでも言えばいいのかな。人間であってもモノであっても、デザイン、思想、音楽、どんなものでも独立したスタンスを確立していればカッコいいですよ。
−−ゲームクリエイターは儲かるというイメージが先行していますけれど、実際のところは如何ですか?
飯野 
他の企業と同じではないでしょうか。儲けている会社があれば倒産する会社もある。貧乏な人も多いしね。たとえば、保険会社なんか、すごい儲かっている会社と儲かっていない会社とでは、差があるでしょう。ゲーム業界だからこその特異性というのはないと思う。やるヤツは伸びるし、やらないヤツは伸びない。日本人の平均年収って、今、720万〜740万ぐらいだよね。うちのスタッフは、これよりは少し多いけれども、ただ、使うものが普通の会社員より多いんですよね。本とか資料とか、自己啓発のための投資が必要な職業だから、収入に対比すると貯蓄がある人は意外に多いかもしれませんね。絵描きが絵の具を買うようなものですね。僕自身は、先ほども言った様にそんなに儲けていませんよ(笑)。この業界は、お金が入るときはたくさん入るけれども、ない時はなかったりするからね。ゲーム制作は1年〜2年と長いから、効率よく儲けられる仕事ではないですよね。すごく売れるソフトをシリーズで出し続けたら儲かるでしょうけど。

ゲーム作りはユーザーや自分自身との戦いです
――今まで、非常に個性的なゲームをプランニングされていますよね。
飯野 
僕の作るソフトって、今のところ300万本も売れるソフトじゃないですよ。300万本も売れるソフトはやはりすごいと思います。でも、僕のソフトはその中の一部、たとえば10万人なら10万人が、「すごくいい」って言ってくれる類のゲームなんですよ。だいたい、僕は学生の頃からクラスの中でも大モテっていうんじゃなくて、学年で3人位、すごいファンがいるっていうタイプなんです(笑)。その状態が今も継続しているというか。確かに叩かれやすいけれど、そういうほうが自分ではやりやすいんですよね。
――では、これからもそういうスタンスでゲームをプランニングされていくのですか?
飯野 
これからは、分けてやっていこうと思っています。わかる人だけがわかるというようなゲームを制作する一方で、万人に受けるようなゲームを作ってみたいですね。今まで1回も万人受けするゲームを作っていないので、そういうゲームを作れないんだと思われるのは悔しいんですよ。それはそれでやっていきたい。
――7月に発売された『リアルサウンド〜風のリグレット』も賛否両論ですね
飯野 
そうですね(笑)。
――まず、"映像のないゲーム"というものを作ったのはなぜですか。
飯野 簡単にいうと、ユーザーに想像力を働かせてほしかったんです。漫画家が小説を書くみたいなものですね。映像は大切だと思うし、これからも映像をなくそうなんて思っていないけれど、映像を思い切ってなくしてみたら、小説みたいに想像力を働かせながらプレイできるゲームになると思って、1回実験してみたかったんです。
――批判のひとつに、"それだったら小説を読めばいいじゃないか"、"ラジオドラマを聞けばいいじゃないか"というものがありますが。
飯野 
小説やラジオドラマだと自分で選択できないもんね。選択するということがいちばん表現したかったことなんですよ。たとえば、『リアルサウンド』の中に、女の子の大切にしていた鳥がいなくなってしまうシーンがあるんですよ。その場面で、"鳥は帰ってくるかな〜?"と彼女から聞かれたとき、"大丈夫、帰ってくるよ"と答えるのか、"帰ってこないんじゃないかな?"と答えるのか、それは恋愛においてものすごく重要な選択だと思うんですね。真実を話すのか、彼女のことを思って優しい嘘をつくべきなのか。恋愛の中にはそういう選択肢がたくさんあるので、選択するという状況をいちばん伝えたかったんですよね。どちらを選んでもエンディングは迎えられますから、どちらを選ぶかが問題なんじゃなくて、ユーザーがパットを持って考えて選択することが重要なんです。『風のリグレット』というタイトルが示すとおり、人生には後悔がつきまとっていますよ。そういうものを勉強して欲しかった。今流行っている恋愛ゲームに対するアンチテーゼみたいなものもあったんですが、"恋"というものの本質を垣間見て欲しかったんですね」
――前作の『エネミー・ゼロ』は難しすぎたという意見もありましたね。
飯野 それは人によって評価も違うしどこにフォーカスするかっていうのは確かに難しい問題ですよね。
――ゲームの中に文字が全く出てこないということも、難易度を上げる原因のひとつだったかもしれませんよね。
飯野 
うん。でも、現実世界では目の前に文字とか説明とかいちいち出てきませんからね(笑)。難しいというのはゲームの難易度云々という問題ではなくて、演出の方法論だと思うんですよね。たとえば、もっとユーザーがとっつきやすい演出にするなら、見えない敵を初めて倒すシーンでは、まず、初心者用に廊下の一本道で敵と遭遇させて誰でも倒せるところからスタートさせればいい。それはわかるけれど、それだと主人公の本当の恐怖が伝えられないでしょう。見えない敵がどこからやってくるのかわからないという本当の恐怖を演出したかったんですよ。僕は、任天堂的評価100点満点のソフトを作りたいとは全然思っていないんです。ただ、任天堂的なセオリーに慣れてしまっている人にとっては難しいゲームだったかもしれません。新しい試みがどういう風に受け止められるのか、結果が出るまで実のところ誰にもわかりませんよね。常にも僕らも作品を作りながらユーザーと戦っているんです。

夢は、"楽園作り"
――売れるゲームというのは飯野さんにとってどういう要素を持ったゲームだと思いますか?
飯野 
なんだろうな。一世代遅れたゲームかもしれないね。2とか3とか、続編、シリーズもの。それもあんまり進化しない続編が売れたりするんですよ。『ダービースタリオン』なんかうまいと思いますよ。アイディア的にはもっと入れられるところをあえてゆっくり進化してみるっていうね。そうしたら最大公約数のユーザーがついてこられるもんね。これがいきなり詰め込みすぎると、一部のユーザーだけしかプレイできなくなりますよ。それから、みんなが欲しているゲームをタイミングよく出せれば売れますよね。でも、それが本当に作りたいものとイコールでなければしょうがないですけど。
――本当に作りたいものより売れるものだけを作り続けなければならないとしたら、クリエイターとしては不幸ですよね。
飯野 
うーん、だから売れるマンガを描いている人も、流行歌を歌っている人も、実はあんまり楽しくないと思うんですよね。売れるということだけを考えるなら、そんなに難しいことではないんじゃないかな。僕自身はこれから受けるゲームを作っていきたいと思っていますけれど。売れないとできないこともありますからね。
――それでは、飯野さんが最近気に入っているゲームはどういうゲームですか?
飯野 
アスキーのゲームコンテストの審査員をしたときに、小学校5年生の男の子が出品した『まおうさてんのえにっき』というゲームですね。このゲームは素晴らしかった。僕の人生を動かしました。彼のソフトをやったのとやらなかったのとでは、僕の人生全然違っていたでしょうね。すごく感謝していて、個人的にも賞を差し上げたんですよ。もちろん、小学生が作ったゲームだから稚拙な部分があったりするわけですけどね。"友達に見せて面白ければそれでいい"っていう感覚が大切だと思ってね。"ゲームって実は面白ければそれでよかったんだ"ということを僕自身忘れてしまっていたような気がするんですよ。この感覚を思い出させてくれて、ありがたかったですね。
――飯野さんのこれから夢はなんですか。
飯野 
楽園作り(笑)
――楽園ですか(笑)?
飯野 
地中海の島でも買って、みんなで楽園で暮らしたい(笑)。今すぐではなくて、もう少したってからね。魚獲って野菜を植えて。で、たまーにゲームを作ったりしてね。そういうクリエイティブな生活がしたいですね。ある時期からは間違いなく引退してそういう生活がしたいです






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