「おーい、島口ぃぃぃ」
キャンパスで、やたらとデカい声のヤツがいたら、迷わず彼女だと思えばいい。
振り向くと案の定、麗華だった。麗しい名前の割に本人に華やかさの欠片もない女だ。
「なんだよ」
「ドイツ語のノート貸してよ」
「なんだよ、お前、今の授業出てたじゃん」
「途中で寝ちゃってさ」
当然のようにノートを貸す。俺のこの気の弱い性格、こいつにモロバレなんだよな。
「さんきゅー。ところで、島口さぁ、会社の目星ついたの?」
俺も麗華も、この4月で大学3年になった。
「俺がそんな用意周到な男に見えるか?」
麗華はニンマリ笑って首を横に振る。
「昼飯おごるよ。ノート貸してくれたお礼」
「マジ!? この2年間、お前に百万回ノート貸したけど、こんなこと初めてじゃん」
「まぁね。天気もいいからサ。外でなんか買って食おうよ」

おにぎり、鶏の唐揚げ、御煮しめ、春雨サラダ、カップ味噌汁。近くの神社の境内で、コンビニで買った御馳走を広げた。
「何か、豪華じゃん。何か、いいじゃん」
俺が興奮して言うと、麗華は笑いながら頷き、
「島口ってさ、正直っていうか、素直っていうか、あどけないっていうか」
「なんだよ、それ?」
「いい御両親に育てられたんだろうなぁって、思うよね」
もしかして、バカにされているのか?
それにしても、天気はいいし、お腹はいっぱいだし、なんて気持ちのいい日なんだろう。

「私、島口より3歳年上だって知ってた?」
麗華が突然言った。
初耳だった。
「病気でねー」
「病気? 全然どっか悪そうに見えないな」
俺がボーゼンとしていると、
「せっかく打ち明けたのに、島口、なんてこない顔しているねー」
そう言って、麗華は笑った。喜怒哀楽が非常にわかりにくい顔で悪かったな。俺は十二分に驚いているんだよ。
「そういえば、病院のベッドで寝ているとき、自分とは全く違う自分になりたいと思っていたような気がするよ」
そう言うと、麗華はなぜか俺を思い切りたたいて、笑いながら立ち上がった。
本当に病気だったのかな? こいつ。
「おしっ、おみくじ引くか。島口も引きな」
「は、はい」
なぜ、敬語なのだろうかと自分でも訝しがりながら、俺と麗華はおみくじを引いた。
「あ、私、“大吉”。島口は?」
・・・・・“大凶”だった・・・・。
麗華は、笑いをこらえながら二人分のおみくじを重ねて木の枝に結びつけた。
「こうすれば、二人分が中和されるね」
彼女が、優しい笑顔の持ち主だということに気がついた。


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