耳が、切れるように痛かった。
向かい風がまともに顔にあたって、あざ笑うかのように舞っている。
寒くて痛くて、真っ直ぐに顔が上げられない。
「やっほー…」
数歩前を彼に向かって、声を上げてみる。
ムッツリと振り返って、彼は言った。
「バカじゃねぇの、山じゃねえよ」
冬の海は、まるで鮮やかな色を忘れてしまったかのような冷たい顔をしているのだ。

彼と出会ったのは真夏の海辺だ。今とは違う色鮮やかな、私の好きな海。そして、そんなこぼれるような光と喧騒の間を、彼は、少しうつむき加減で一人で黙々と歩いていた。
まるでそこだけ、季節が違うかのように。
あれから、4年が経った。

「なんで、こんな寒い日に海に来るかなぁ?」
私の声が聞こえているのかいないのか、ポケットに手を入れて、ふてくされたように彼が歩いていく。「なんか、用があんのかなぁ?」
こんなときは少し膨れた振りをするのが効果的なんだって、知り合って最初に覚えた。
「ねぇってば!!」
「いいだろう、別に…」
彼独特の投やりな返事。
「いいけどさ、別に」
つきあって年を重ねるたび、二人の間の言葉はだんだん減っていくようだ。声にならない言葉だけが私たちの間を行き来している。こんな状態がいいことなのか悪いことなのか、今の私にはわからない。
ダウンジャケットを着込んだ彼はポカポカと暖かく、思い切り抱きついてみる。
「あったかーい。私の言うこと聞いて、ダウンジャケット買ってよかったでしょ?」
何もこたえず、彼は真冬の海辺に座り込んだ。ガチガチ震えながら、私も彼にかじりつくように砂浜に座り込む。
「人は、二本足で立ち上がることによって、未来に目を向け始めたって−」
「−−−−−−」
「こんなところで、非生産的に座り込んでいると、どんな未来が見えてくるの?」
声には出さないけれど、彼が笑っているがわかった。彼が笑ってくれると、私は彼の百倍楽しい気持ちになれる。
何も語らず、瞳も交わさず、ただ冷たい風に体を預けて、二人、触れ合っている箇所だけがポカポカと暖かい。
風に乗って白いものがちらちらと舞い始めた。今年最後の雪かもしれない、なんて漠然と思う。遠い目をして、冷たい風に顔を晒している彼を見つめながら。
「二人でいれば寒くないね」
彼がまた、声にならない笑い声を立てたような、そんな気がした。


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