「新緑の季節の昼下がりの公園ぐらい、気持ちのよい場所はないなぁ」 と、山下が言った。 「ほんとにねぇ」 と俺も答えた。 今年で35歳になろうかという男ふたりが、平日の昼下がりに、ボーっと雁首を並べているのはなんとも間抜けな光景なんだろうな、と俺は思ったが、山下にとってそんなことはどうでもよいことらしかった。 ビルの谷間にあるちょっとした緑のスペースが好きで−」 「田舎にあるドーンとした緑のスペースは?」 「−−ダメなんだ。チマチマしたのがいじましくあるのがいい」 「なんだ、ソレ」 「お前は田舎育ちだろう。俺は東京生まれの東京育ちだから」 「お前、今ちょっと優越感感じてない?」 それには答えず、山下はニヤニヤ笑っている。 「なんて俺たちは、有休まで取って平日のこんな時間にこんなチマチマした公園でボンヤリしてるの?」 「たまにはいいだろう、こんなのも」 本当に、山下のマイペース振りは、ここ10年少しも変わらない。そもそも昨日携帯にメールが入って、 “明日は有休を取れ。急用あり”とか書いてきたのはコイツである。 「急用って、コレか?」 「まぁな」 それにしても、昼下がりの都会の公園は、暇な学生やフリーター、それにMr.ルンペンなど、この現代社会の中で用途不明の人間たちばかりが集まっているように思う。こんな光景を見ていたら、なんだか物悲しく不安な気持ちになってきた。 「なんか、ああいうのを見てると、最近不安になってくる」 「そっか?」 ゜男が35歳を過ぎても独り者でいるということは、実は、女が独身でいるということより、ある意味世間の風当たりが強いということに、最近気が付き始めた」 「ふーん?」 「たとえば、35歳で独身の女がいるとするだろう? “男にもてんのか”ぐらいに世間の奴等は考えるけど、男の場合は“性格が歪んでいるんじゃない”とか、“ホモかもね”とか」 「そぉかぁ?」 「うちの親が、“アンナ、まさか山下クンとかいう人と、ホモとかいう関係じゃないだろうね?”って」 「ギャハハハハハハハハハ!! 愉快だね、お前の親」 「でも、確かに親も不安にかられるわ。この状態を見ていると」 そこでいきなり静寂を打ち破るダミ声が響き渡った。 「兄ちゃん、兄ちゃん」 Mr.ルンペンの1人が、歯のない赤鬼のような物凄い形相でこちらに向かってくる。 「お願い、100円ちょーだい」 「100円?」 「お願い」 山下は、あまり表情も変えず、そのMrをじっと眺めていると、ポンとお金を差し出した。 「ウワッ、ありかと! でもこれじゃたんない。あと100円」 このやり方で、そのMrは、山下から合計300円と50円せしめ、その勢いは留まることを知らないように見えた。 このままでは、山下が有金全部を巻き上げかねられない勢いだったので、俺は山下を引きずるようにしてその講演から逃げした。 「お前、なんで金をやるの」 「わかんない。さすがになんか後悔している」 「お前なぁー」 「人生、いろいろあるなぁー、ホント」 「なんか、俺は危機感を覚えるね」 「何に?」 俺が聞き返すと、 「人生に」 と、山下は答えた。 「なんかビールが飲みたいねぇ」 と山下が言った。全く同感だった。 「ビールが飲みたい! グッと冷えたヤツ」 思わず俺は叫んでいた。 |