その日、矢島福子の結婚式は、かなり盛大に催された。
双方の家庭がそれなりに裕福な上に、新郎が一流企業のサラリーマンだったので、盛大な式もまあ当然といえば当然の成り行きなのかもしれないけれど、『らぶ・すとーりー』と称するアニメ作品が上映されたときは、さすがの俺ものけぞった。
「自分らの馴れ初めをアニメにして客に見せて、どうするつもりなんだ。あいつら、バッカじゃないのぉ」
僕の隣で、親友の大野喜一が悪態をつく。だけど喜一よ、やっぱり昔の彼女の結婚式なんかにノコノコ出席して、『らぶ・すとーりー』を鑑賞している僕ほどのバカ者は、この会場のどこをどう捜しても見つからないだろうと思うよ。
僕と矢島福子とは、中学2年から高校を卒業するまでの足掛け5年近く間付き合い続けたことになる。しかし、当時福子は、鹿島中3代デブ女の中でもトップを独走するデブ中のデブで、当然、そんな女に心を寄せられている僕、松田一志は、単なる額年中の笑いものにすぎなかった。
親友の喜一に言わせると、僕は「デブに好かれやすい体質」だそうで、しかも矢島福子は「ぶーちゃん」だという。

「ぶーちゃんライス、いいなぁ、マッつん」

結局僕たちは、皆さんにお笑いを提供するコメディアン夫婦ということでオチがついたのである。

しかし、付き合っている5年の間に、福子はみるみる痩せて美しくなっていった。しかし、それと反比例するように、僕達の間で交わされる言葉は減っていった。
「まだ嫌われた方が楽だよ」
別れる1年位前から、福子はそう言ってよく泣いていた。何があったというわけでも何をしたというわけでもなく、結局、ふたりの間に何もなくなってしまったということが問題だったのだ。体はあんなに近くにあったのに、心は、抱きしめるそこからなす術もなくすり抜けていった。

「“ぶーちゃんライス”の過去をあの男は知らんな」
“ぶーちゃんライス”。
喜一が福子に命名した「それだけ飯をいっぱい食うぶーちゃん」。でも、目の前の福子は、痩せていてとても美しい。
「ぶーちゃんライスは、もういないんだぜ」


式が終わって外に出てみると、梅雨の谷間にちょっと覗いた空は、抜けるような青い色だった。



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